研究概要 |
今年度は東北大学の西川青季との共同研究を通して,次の2つの研究効果をあげることができた. 1つめは,複素双曲型空間の間の調和写像の複素解析性についてである.複素双曲型空間は理想境界を付け加えることにより,自然にコンパクト化でき,境界付きの多様体とみなせる.このとき一般に,複素双曲型空間の間の固有な正則写像は理想境界のCR構造を保存することが知られている.われわれは逆に,複素双曲型空間の間の固有な調和写像が,境界までC^4級に延び,境界でCR構造を保存するならば,それは正則写像に他ならないことを証明した. 2つめは,k-term Carnot空間の間の固有な調和写像の無限遠境界値問題についてである.われわれはまず,Carnot空間に間の固有な調和写像が、無限遠境界上で満たすべき必要条件を決定し,同じ境界値をもつ固有な調和写像が内部でも一致するための十分条件を導いた(一意性定理).また,このとき得られる必要条件が境界の幾何構造と内部の幾何構造とを密接に結び付けていることが予想されている.さらに,適切な微分可能性があり,上の必要条件を満たす'nondegenerate'な写像を境界に与えたとき,その写像を境界値とする固有な調和写像の存在を証明することもできた(存在定理).
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