液晶における強誘電・反強誘電性の発現に分子の運動性がどう関わっているか検討を行ってきた。まず分子の各セグメントの各相における配向秩序と運動性を議論するため、部分重水素化した反強誘電性液晶のD-NMR測定を行った。詳細にスペクトルの解析を行ったところ、アキラルアルキル鎖は分子長軸にほぼ平行なのに対して、キラルアルキル鎖は大きく折れ曲がっていることが明らかになった。さらに、キラルアルキル鎖は常誘電相であるSmA相においても非常に大きな回転束縛を受けており、しかもその束縛方向は分子傾き面に対して非対称になっていることがわかり、それは不斉炭素の影響によると推測できた。このことに関しては、現在Phys.Rev.E rapid communicationに投稿中である。 また13C-NMRによる反強誘電性液晶MHPOBCのT1測定からは、自発分極に寄与すると思われるエステル基と不斉炭素の緩和挙動のみが常誘電SmA相と反強誘電SmCA^*相で異なることを明かにした。このことは分子全体の長軸周りの回転状態はSmA相とSmCA^*相で変わりがなく、SmA相でも分子は自由に回転していない可能性を示しており、また相転移において特定の官能基が、分子間の相互作用を受けて緩和状態が異なることを示唆している。現在この成果について、論文作成中である。今後はさらに実験を行い、この特定の官能基の緩和挙動の変化が反強誘電相に特有なのか、層内の自発分極の発生によるのかを明らかにするつもりである。 またV字型反転を示す反強誘電性液晶について、デジタルカメラを使用しての基本的な電気光学物性測定、組織観察を行い、特に配向膜の厚さが反転特性に大きく影響していることを明らかにした。この成果についても論文作成中である。 高周波の誘電率測定に関しては少し立ち後れている。現在は再現性ある結果を得ることができる適切なセルの形状を試行錯誤しながら検討している。
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