エノラートなどのカルバニオンのアルキル化剤(求電子剤)ヘの求核置換反応による炭素炭素結合形成反応におけるアルキル化剤の脱離基の機能強化という観点からの研究を行った。 1)機能性脱離基を有するアルキル化剤の設計・合成 カルバニオンの対カチオン(リチウムカチオン)と強く相互作用する事が期待されるメトキシエトキシ、もしくはメトキシエトキシメチルユニットをオルト位に組み込んだ各種ベンゼンスルフォニル基を機能性脱離基として設計しそのブチルエステルを合成した。合成法は、3-メトキシエトキシベンゼン誘導体をオルトリチオ化した後亜硫酸、SO_2Cl_2で順次処理してスルフォニルクロリドに導き、引き続きエステルとする方法、もしくはベンゼンスルフォニルエステルをオルトリチオ化しついでメトキシエトキシメチルクロリドと反応させる方法である。 2)リチウムエノラートのブチル化反応 一般にケトエノラートは反応性が低く、そのアルキル化は容易でない。本研究ではまずテトラロンのリチウムエノラートのブチル化について検討した。この反応系は、現在最強のアニオン活性化剤であるHMPA(強い発ガン性を有する)を添加してヨウ化ブチルを用いてもわずか10数%しか所望のαブチルテトラロンを得ることができない。しかし今回合成した新アルキル化剤をトルエン中で用いたところ4%の収率で所望の生成物を得た。HMPAや他の金属を用いずにブチル化反応が(わずかでも)進行したことは大いなる前進である。興味深いことにTHF、DME中では0%であった。以上の結果は脱離基に導入したメトキシエトキシユニットがリチウムエノラートのリチウムと相互作用し反応活性化に貢献したことを示唆する。即ち、本コンセプトの妥当性が示されたのである。以上のように本年度の研究によって高機能脱離基開発の端緒を掴んだ。
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