研究概要 |
熱帯雨林の重要構成種であるフタバガキ科樹木が持つ種多様性が、どのように遺伝的多様性と関連しているかを調べる目的で、フタバガキ科Shorea属4種、S.leprosula,S.acuminata,S.curtisii,S.parvifoliaの各種複数サンプルからDNAを抽出し、クロロプラストtRNA遺伝子間領域(約300bp)、核GapC遺伝子の部分(約1000bp)の塩基配列を決定した。tRNA遺伝子間領域では種内変異は見つからなかったが、核GapC遺伝子では種内変異はサイト当たりのπが0.0014-0.0028であり、種間変異はその数倍であることがわかった。樹木でのDNA種内変異量の研究は殆どないので他種樹木との比較は出来ないが、例えばショウジョウバエよりは小さく、人よりは大きい遺伝的変異量を持っていることがわかる。 理論的研究として集団が分集団構造を持ちその間で移住がある場合について、ランダムに交配する大きな集団と集団の平均適応度がどのように異なるかについて調べた。地理的構造を持った集団として、サイズNの有限個の分集団を仮定したライトの島モデルを想定する。まず(1)各々の分集団でほとんど単型的である場合(突然変異率、移住率が小さい)と、(2)自然淘汰が非常に弱い場合について平均適応度の近似式を求めることができた。移住率が高まって行くとランダムに交配する集団と振る舞いが似てくるが、自然淘汰の強さによってこの遷移の仕方が異なっており、自然淘汰が弱いときは、突然変異率と移住率の比が1よりずっと小さくならないと地理的構造を持った集団はランダム交配集団と同じ平均適応度を持つようにならない。しかし自然淘汰が強くなるとより小さい移住率でランダム交配集団と同じ平均適応度を持つようになることがわかった。
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