研究概要 |
昨年に引き続いてフタバガキ科樹木Shorea属4種、S.leprosula,S.acuminata,S.curtisii,S.parvifoliaの各種10個体以上からDNAを抽出し、クロロプラストtRNA遺伝子間領域(約300bp)、核GapC遺伝子の部分(約770bp)の塩基配列を決定した。tRNA遺伝子間領域では種内変異は見つからなかったが、核GapC遺伝子では種内変異はサイト当たりの塩基多様度が0.0012-0.0029であり、種間変異はサイト当たり、最も近いS.acuminataとS.curtisiiの間では0.0781、その他の種どうしでは0.011から0.0162という推定値を得た。各種での自殖率を個体内変異と個体間変異から求めたところ0.39-0.67と高い値を得た。このような高い自殖率が、低い種間変異から推測されるこの属の急速な種分化にどのように寄与したかを探ることは今後の課題である。 上記のような塩基配列データから変異維持や進化の機構を究明するために、複数のサイトを持つ「ほぼ中立モデル」の理論的解析を行った。このモデルのもとで進化する配列集団(サイズ一定を仮定)を計算機でシミュレートし、定常状態において中立性のテスト(進化速度のばらつきテスト、田島のテスト、MKテスト等)を適用して、どの程度の淘汰が働くと、淘汰の検出が可能をかを調べた。その結果進化速度のばらつきテストでの検出は困難であることが示された。他のテスト、特にMKテストでは2Nσ(N:集団サイズ、σ:淘汰係数の標準偏差、淘汰の強度を表す)が5程度以上になると検出が可能になるが、50を超えると検出力の低下が起こる。上記のGapC遺伝子ではアミノ酸置換をひき起こす変異は少なく、ここで解析を行ったタイプの淘汰は検出されながった。
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