研究概要 |
熱帯雨林で重要構成種であるフタバガキ科樹木が持つ種多様性が、どのように遺伝的多様性と関連しているかを調べる目的で、種内・種間のDNA変異を推定した。クロロプラストDNAの配列を使ってフタバガキ科の属間の系統関係を決定したところ、フタバガキ科樹種は二つのグループに別れ、またShprea属は他属を含む大きなグループであることが明らかとなった。次に種内遺伝的変異を明らかにするために、Shorea属4種S.leprosula,S.acuminata,S.curtisii,S.parvifoliaの複数個体で、クロロプラストtRNA遺伝子間領域、核のGapC遺伝子の一部の塩基配列を決定した。tRNA遺伝子間領域では種内変異は見つからなかったが、核GapC遺伝子では種内変異は塩基多様度が0.0012から0.0029であり、種間変異はサイト当たり0.00781から0.01621という推定値を得た。自殖率は0.39-0.67と推定された。 塩基配列データから変異維持や進化の機構を究明するために、「ほぼ中立モデル」の理論的解析を行った。進化速度のばらつきの指数であるdispersion index(DI)でみると、集団サイズの変化があると、DIは増大することが分かった。さらに集団内変異のパターンから進化機構を考察するために、複数のサイトを持つDNAを想定してその進化を計算機シミュレートした。定常状態において中立性のテスト(進化速度のばらつきテスト、田島のテスト、MKテスト等)の淘汰検出力を調べ、検出可能範囲のパラメーター領域を特定した。理論的研究からは、アミノ酸置換変異を使った解析が、淘汰の検出に重要であることが分かったが、上記のGapC遺伝子ではアミノ酸置換をひき起こす変異は少なく、ここで解析を行ったタイプの淘汰は検出されなかった。
|