研究概要 |
先天奇形として最も頻度の高い先天性心疾患は、その診断技術や治療法が近年、画期的な進歩を遂げている。しかし発生機序については以前から種々の要因が唱えられているものの、実際にこれらの因子が如何なる細胞に、どのような障害を起こして心奇形が発生するかは不明である。本研究では、神経栄養因子およびその受容体から成るカスケードの異常に基づく神経堤細胞(心臓神経堤細胞)の分化・成熟・遊走障害が先天性心疾患(特に先天性心疾患で頻度の高い心房・心室中隔欠損、ファロ-四徴、肺動脈狭窄症など)の発生機序の一つになりうるとの仮説を立て、これを実験的に証明することを目的とした。 研究成果:心臓神経堤細胞における神経栄養因子/受容体カスケードの発現を検討するため、まずラット神経堤細胞由来のPC12細胞およびヒト神経堤細胞由来の神経芽細胞腫株につき、各種神経栄養因子(NGF,BDNF,NT-3,NR-4/5)とその受容体(trkA,trkB,trkC,trkE)の発現、ならびにその発現調節機序を検討した.これらの細胞では神経栄養因子受容体であるtrkA及びp75が発現していたが、他の神経栄養因子/受容体カスケードの発現は認められなかった。さらに発現していたtrkAはレチノイン酸によって、転写レベルにおいてその発現が誘導された。さらに発現誘導されたNGF受容体はNGF投与によってimmediate-early responseならびに各種シグナル伝達路中間体の活性化を引き起こしたことから、機能的な神経栄養因子受容体であることが確認された。今後は同様のテクニックを用いて心臓神経堤細胞における神経栄養因子/受容体カスケードの発現を検討するため、ラット胎仔(E5〜)の初代培養心臓神経堤細胞につき各種神経栄養因子(カスケードの発現をPCRにて経時的に検討する予定である。
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