研究概要 |
呼気中のアセトンに関する研究は古く、1978年イギリスの医師John Rolloが重篤な糖尿病患者の呼気を「腐ったりんごの悪臭」と表現したのがはじめてといわれている。以来多くの測定法が開発され、簡易で非侵襲的な糖尿病の診断等に用いられてきた。現在もっとも広く測定に利用されているのは、FID検出器付ガスクロマトグラフ(GC-FID)法である。本法は検出感度がアセトンなどC3化合物で1ppb以下程度と非常に高く、また汎用器であるため、コストも安い。しかし測定には経験と熟練を要する。そこで本研究では、1990年代に入って普及しはじめた赤外線光音響分光分析(IR-PAS)法を原理とした簡易型測定器(Multi-gas Monitor Type1302, Bruel&Kjoer社)によって呼気中アセトンの測定が可能か否かを試みた。 まず、標準法であるGC-FID法で10人の健康な青年男女の被験者から検出を試みたところ、10nmol/Lから20nmol/Lアセトンが検出できた。しかし、IR-PAS法では検出できなかった。呼気中には赤外線吸収の干渉物質として飽和状態の水分やおよそ4%の炭酸ガスがふくまれている。これらによって、妨害されたのかもしれない。 今後、前処理法や分析感度を向上するための試みし、験者側にも被験者側にも簡易で非侵襲的でかつ連続的に測定できるIR-PASでの測定を可能にし、臨床や体力科学への応用を今年度はおこなう予定である。
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