研究概要 |
本年度は3年間の研究の2年目であり,主として,エスノメソドロジーの手法によって実際の授業を分析する事例研究を行った。学校や教室の中での日常知を「学校知」と呼び,それを観察・分析する。つまり,学校という社会の中で,歴史や伝統それに教育制度によって,教師からも子どもからも常識と見なされるようになった知識である。 このエスノメソドロジーあるいはエスノグラフィーに関する研究や国内外の文献は,今日では珍しいものではない。ことに,現代の社会現象どもいえる学校教育の問題を,エスノメソドロジーの手法でアプローチすることは,マスコミでも取り上げられるようになった。 しかし,そのような分析のなかで見られる子どもの姿は,無限の可能性を秘めた実に豊かなパワーである。まさに子どもたちは,本来「生きる力」そのものであるといっていい。ところが,学校の中では,そのようなパワーが失われることがあるのは,どうしてかという問題がある。 もちろん,その問題は,学校教育のもつ制度的制約や社会性,規範性といったことを考慮せず,無邪気に学校を批判するといったことでは無意味である。むしろ,本研究では,そういう子どものすばらしさを引き出し,授業の中に生かそうとしている実践やそのなかで錯綜する学校知を明らかにした。さまざまな状況の中で,学校知は時に正のまたは負の教育効果を与えていた。 例えば,小学校3年生の授業では,子どもの好きなドッヂボールのコートの作り方を工夫するもので、正六角形の作図にまで学習内容は及んでいた。これは,2年学年先に学習する内容である。また,小学校5年生の授業では,割合の概念をめぐるものである。量を差で比較するそれまでの方法に疑問を抱き、矛盾点を指摘する児童が現れる。それからさまざまの児童なり工夫の中で,商で量を比較するという方法を思いつく児童が出てくるのである。これらの議論は,実に優れたもので,興味深い。
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