研究概要 |
カイコの笹繭形質は、フラボノイドの配糖体による着色である。ゲノム情報を利用して笹繭の原因遺伝子Gb、Ga、GcとUDP-グルコース転移酵素遺伝子(UGT)との関係を解析した。その結果、GbはUGT遺伝子のクラスターと密接な連鎖があることが分かったが、GaおよびGcについては、UGTが原因遺伝子であるという証拠は得られなかった。そこで、本研究では、フラボノイド以外にカイコの色彩変異に影響を与える物質として尿酸に注目することにした。「油蚕」と呼ばれる一群の変異体では、皮膚の尿酸の蓄積量が減少して透明になる。oal斑油は第2染色体29.7に占座する遺伝子によって支配される斑油であり、その油蚕性の発現には第13連関群40.4にある別の遺伝子mu-oalが必要である。藤井ら(2008)は、oalの原因遺伝子としてBmAP3S1を同定している。oal個体ではBmAP3S1の正常型mRNAの量が減少し、替わって第1イントロンのスプライシング異常となるRNAが多量に生じる。本研究では、交配で+oal/+oal,mu-oal/mu-oalの個体を作出し、BmAP3S1の転写産物をRT-PCRで調べた。その結果、正常型のmRNAのみが生じていた。既報の結果を考慮すると、BmAP3Sのスプライシング異常は、oal/oal,mu-oal/mu-oalの個体でのみ起きている。したがってmu-oalはoal遺伝子の正常なスプライシングに必要な因子をコードしている。mu-oalの単離をめざし、第13連関群の塩基配列情報に基づいて、o10系統(oal,mu-oal)とp50T系統(oal,+mu-oal)の間で多型を示すPCRマーカーを開発した。戻し交配を行い、得られた約500個体を斑油と正常に分けてDNAを調べた結果、mu-oalは未解析のテロメア付近に座位することが分かった。
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