過去数十年のあいだに、アフリカの熱帯雨林では伐採事業や森林保護が活発化し、この地域の住民であるピグミー系の狩猟採集民は生活や文化を維持することが難しくなっている。わたしは、これまでカメルーンのバカ・ピグミーに森林保護が与える影響を研究してきたが、特別研究員に採用後は、バカの生活・文化を考慮した森林保護プロジェクトの確立に影響を与えるような新たな動き、先住民運動とバカの慣習的権利の確立に注目してきた。 前半は、受け入れ研究室のセミナーに参加し、霊長類学や保全学、人類学に関する新たな知見を吸収し、みずからの研究を深めた。これまでわたしはおもに人類学的な観点から、アフリカの熱帯雨林の保護と住民の生活・文化め両立を検討してきたが、受け入れ研究室では、霊長類学者や動物学者と議論することによって、霊長類や野生動物の保護の重要性を認識し、住民の権利確立と動物も含めた森林資源の持続的利用について多面的に考え、交渉する素地を身につけてきた。 後半は、慣習的権利の確立のために、導入を検討している参与描地図法の開発者J.Lewis博士が所属するロンドン大学人類学科に留学し、導入の際の問題点を議論するとともに、大学や先住民支援団体で情報収集や議論を行っている。また、フランスやカメルーン、アメリカへ渡航し、国際学会や研究会で発表を行いながら、学術交流と研究動向の把握を行っている。出版については、バカ・ピグミーをとりまく現代的な問題についての論文やエッセイの執筆を行った。採用後い年間の研究活動は、そのほとんどが研究実施計画に即したものであり、バカ・ピグミーの生活や文化を両立する森林保護プロジェクトを確立するうえで重要なステップである。
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