研究課題
社会性昆虫の最大の特徴は、繁殖を行う個体と不妊の個体が存在し、それらの間で分業を行うことである。それらの分業によりコロニーレベルの労働効率や適応度は著しく向上しており、そのため、社会性昆虫は熱帯・亜熱帯域の陸上動物の中で最も現存量が多く、非常に繁栄している。不妊個体の存在は、「仔をより多く残すことができる性質が選択される」という自然選択説と一見矛盾しており、生物学の中でも特に重要な問題である。これまでは不妊個体の進化や維持の究極要因の解明を目的とした研究は盛んに行われてきたが至近的機構はほとんど研究されておらず、全く不明である。本研究では、社会性昆虫の中でも特に複雑な分業システムを発達させたシロアリを材料とし、どのような要因により不妊個体への分化が決まるのか、またどのような遺伝子が不妊個体の分化に重要な役割を果たしているか調べることを目的とした。本年度は、不妊個体への分化の決定機構を詳細に調べることを目的とし、一次生殖虫(有翅虫が翅を落として繁殖をしているもの)が、仔虫の不妊個体への分化を誘導するか調べた。一次生殖虫の単為生殖により生じた仔虫を職蟻(不妊個体)に育てさせるとそれらはすべてニンフ(将来一次生殖虫になる個体)に分化した。一方、それらの仔虫を一次生殖虫に育てさせると、多くの仔虫が職蟻に分化した。この結果から、一次生殖虫が仔虫を不妊個体へ分化するように誘導することが明らかになった。また、本年度では、不妊個体の分化時に重要な遺伝子を同定するため、将来ニンフに分化する仔虫と職蟻に分化する仔虫でそれぞれ発現している遺伝子を抽出した。来年度にそれらの間で発現遺伝子の違いを明らかにする予定である。
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Journal of Wood Science (印刷中)
The American Naturalist 173
ページ: 848-853
Biotechnology of Lignocellulose Degradation and Biomass Utilization : Proceedings of Mie Bioforum 2008 2008
ページ: 16-20