研究概要 |
2011年度の研究成果は、昨年度までに構築した実験系を用いて「微細粒子層の熱慣性を定量し、惑星表面の熱物性に関する新たな知見を得た」という点に集約される。以下、詳細を報告する。私の研究課題「氷衛星表面に対する新たな年代決定手法の開発」には、衛星表面の粒子層の熱物性がどのように決まるか、定量的に理解することが必要である。粒子層の熱伝導率を実験的に定量する研究は多い[例えばPresley and Christensen,1997 ; 2006;2010 ; Huetter et al.,2008]が、熱慣性を測定した研究は稀である。しかしながら、惑星表面の温度変化に熱慣性は大きな影響を与えるため、熱慣性を直接定量する事が重要である。 私は、昨年度までに構築した真空実験装置を用いて、火星のような低圧環境下において微細粒子層の熱慣性を定量した。その結果、直径100μm以下の粒子層の熱慣性は、先行研究による推定より大きな値になる事を発見した。これは、従来の惑星科学上の常識に修正を迫る結果である。惑星表層を覆う粒子層の熱慣性の値から、惑星表面の地質を解釈する先行研究は多くあるが、本研究の結果はこれらの解釈に新たな制約を加えるものである。 私はこの成果を中心とした博士論文を執筆し、審査を受けた結果、3月22日をもって博士(理学)の学位を授与される事が決定した。
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