本研究の目的は、幼児の運動学習について調べることにより、学習の敏感期の存在や急激な身体的発達に対応して運動制御が適宜調整される現象のメカニズムを解明することである。本年度は、幼児も成人も同条件で参加でき、かつ定量的に事実を把握し運動学習の評価ができるような実験系を構築するため、成人を対象とした研究を行った。 意図した運動を行うために脳内で構築されると考えられている「内部モデル」では、運動結果(エラー)の評価をもとに次に遂行する運動の予測・修正を行う。両腕運動などで複数のエラーが観察された場合には各腕の制御系にエラーを適切に割り当てることが必要となるが、その機序は明らかでない。そこで本研究では、両腕リーチング運動中に右腕のみ視覚情報(カーソル、ターゲット)を与えながら、実際の腕の動きからカーソルへの回転変換角度が漸増的に変化する視覚運動変換を学習させた場合に、左腕が右腕の視覚情報を参照するかどうか検証した。 実験の結果、視覚情報がある右腕は視覚情報変換の学習によって徐々に運動方向が変化し、視覚情報のない左腕も同様に変化した。またその傾向は視覚情報を左側に呈示した場合、特に顕著だった。このことから、被験者は事前に視覚情報が右腕のものであると知らされていたにもかかわらず、潜在的過程により左腕でも視覚運動変換を学習することがわかった。 さらに両腕の視覚情報を呈示した場合も、左右で逆方向の回転変換を課すとどちらの腕も学習できないことがわかった。これより、複数の運動とエラーの間での相互干渉は、両腕運動制御を理解する上で不可欠な問題であることが示唆された。
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