複数の身体部位を同時に動かすとき、部位ごとに運動の制御過程(内部モデル)があると考えると、エラーがそれを生じた制御過程に適切に割り当てられなければ、正しく運動が修正されない可能性がある。しかし、同時に複数のエラー情報が脳に入ってくると、エラーと制御過程との対応づけは一対一に定まるとは限らない。 そこで、エラーが複数生じると、脳は潜在的に複数を同時に参照するのではないかと考えた。 研究方法には、コンピュータ画面上でのターゲットへのカーソル到達運動課題と、視覚運動回転変換を用いた。視覚運動回転変換とは、たとえば自分の手が見えない状態で画面上のカーソル等を動かす際に、実際の運動方向に対して、カーソルが一定角度回転して表示されるような操作を加えるものである。このようなとき、カーソルを目標のターゲットに到達させるために、次に運動する際にはカーソルの回転と逆方向に手をのばすようになることが知られている(Krakauer et al. 2000)。 被験者は、片腕でターゲットまでの到達運動課題を行うが、その際5~6試行に1度、手先位置を示すカーソルが、スタート位置を中心にそれぞれ異なる角度回転して、1つまたは2つ表示されるという回転変換を加えた。そして回転変換の次の試行で運動が修正された方向と量を調べることで、それぞれのカーソルのエラー情報がどの程度制御過程に割り当てられたのか検証した。その結果、まずカーソルが1つだけ回転する場合には回転角度が小さく予測に近いほど参照比率が高まることが示された。また、カーソルが2つの場合には各々のカーソルの参照比率は、それらが単独で表示されるときの約1/2と減少するものの、予測と近いエラーほど参照比率が大きいという性質は保持された。 この結果は、二つのエラーが生じると制御過程にはそれらの両方が同時に割り当てられること、さらにそれぞれのエラー情報は加算平均的に運動の修正に反映されることを示唆している。
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