研究概要 |
本年度はスリランカおよびバングラデッシュにおいて採集した住血吸虫Schistosoma nairi,S.indicum,S.spindaleとその宿主貝(Indoplanorbis exustusとLymnaea spp.)について、ミトコンドリアDNAと核DNAの塩基配列を決定し、アライメント分析並びに系統樹分析を行った。まず、S.nairiは形態的にも寄生場所も他の住血吸虫と異なっているが、S.sinensiumに類似した配列を有する。系統解析の結果、S.nairiは、アジア産Schistosoma属の住血吸虫の進化における、かなり早い時期に分岐したものと考えられる。またS.indicumはS.spindaleと近い配列をもつが、S.spindaleでは種内変異が大きく種分化が進んでいる。系統解析の結果、これら2種はアフリカ産の住血吸虫に近縁であることが分かった。一方、宿主貝では、Indoplanorbis exustusおよびLymnaea spp.のリボソームRNA遺伝子(18S並びに28S)の系統解析を行なった結果、Indoplanorbis exustusはアジア産のLymnaeaよりはアフリカ産のBiomphalaria spp.に近いことが分かった。また、染色体の解析では住血吸虫のC-バンドパターンについて検討した結果、7対の常染色体及び性染色体(Z、W)のC-バンドパターンはそれぞれ種特異的であり、大きくアジア産とアフリカ産の間に違いが見られた。特に染色体2は、その進化においてAM inversionを行なったと思われ、したがって、この染色体の変化はアジアの日本住血吸虫が原形のタイプであり、それに対してアフリカの住血吸虫は派生的であることを暗示している。最近、我々のDNA解析においても同様の結果が得られている。
|