研究概要 |
本研究では、現代日本語に見られる母音の長音化と短音化を「語の音節構造」という観点から分析し、幼児語から成人の語形成過程(短縮語、ズージャ語)、オノマトペの強調形に至る一連の日本語の名詞語彙に、共通した音節構造の原理が働いていることを明らかにした。具体的には、日本語の2音節語に「長音節+短音節」という構造を好み、逆に「短音節+長音節」という構造を忌避する傾向が存在する。音節構造の変化という視点からまとめると次のようになる。 【単音節化】 a.短長→短短: 外来語短縮 b.長長→長短: ズージャ語,散発的音声現象 【長音節化】 a.短短→長短: 幼児語,ズージャ語,散発的音声現象,オノマトペ強調形 b.短長→長長: 散発的音声現象 c.短→長短: 幼児語,ズージャ語 d.長→長短: ズージャ語 e.長 → 長長: 幼児語 f.短長→長短: 幼児語(?),ズージャ語 全体として、日本語には「長音節+短音節」という音節構造を好み、逆に「短音節+長音節」を避けようとする一般的な原理が働いていることがわかる。つまり、「長+短」という2音節3モーラの構造を好む傾向が幼児の言語に観察され、それと同じ傾向が成人の言語にも、特に規則によって新たに生成される語を中心に認められるのである。 本研究では以上の事実を、最適性理論の枠組みで分析し、これらの現象がこの理論的枠組みの中で一貫した分析が可能であること、とりわけ数少ない共通した制約を仮定することによって説明できるあることを明らかにした。
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