研究概要 |
高等植物の液胞は,貯蔵器官にみられるタンパク質蓄積型液胞と栄養器官の分解型液胞の2つに大別されている.両液胞は明確に区別されているにも関わらず,種子の成長の過程をみると,相互に変換が起こっている.この液胞の相互変換機構を解析するために,脂肪性種子のタンパク質蓄積型液胞に特異的に出現する膜タンパク質MP73の構造解析及び生合成の機構を解析した.MP73は,登熟期の中期に種子のタンパク質蓄積型液胞膜に集積されるが,種子の発芽期には,タンパク質蓄積型液胞が分解型液胞へ転換するのと並行して,消失していく. MP73のcDNAを単離し,その構造解析を行うと共に,抗体を作製して,その生合成の機構を解明した.cDNAがコードするMP73の前駆体は,3kDのシグナルペプチド,24kDのプロペプチド,54kDの成熟型MP73ドメインからなっている.54kDの成熟型MP73ドメインの後半は約25kDのGlu/Arg richの繰り返し配列が存在し,この特徴的な構造のためにSDS-PAGE上の見かけの分子質量が73kDになると考えられる.架橋実験から,MP73は液胞膜上で複合体を形成していることが分かった.MP73を含めて,これまでにタンパク質蓄積型液胞に特異的な5種類の膜タンパク質の構造解析と抗体作製が完了したので,これらを用いて,タンパク質蓄積型液胞と分解型液胞の相互変換の機構の解析を次年度も引き続き進める予定である. 高等植物の2種類の液胞の機能転換は,上記の種子の形成及び発芽・成長の過程の他,花粉の成熟過程でも起こることが分かってきた.花粉の成熟過程において,貯蔵器官タイプと栄養器官タイプの2種類の液胞プロセシング酵素の遺伝子発現がみられることから,2種類の液胞がそれぞれ機能分担して働いていることが考えられた.シロイヌナズナの花粉の成熟過程における液胞(空砲)の形成と変換を電子顕微鏡観察で詳細に解析した.
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