研究概要 |
アオコ群体に共存する細菌と藍藻との相互関係,特に藍藻の産生するプロテアーゼインヒビターの生態学的役割を解明するために,まず,アオコに共存する細菌群,特にプロテアーゼ活性を示す細菌群が,アオコの消長と共にどのような変動を示すのかについて検討した。1998年6月から11月にかけて,弁慶池(京都)において毎月1回9サンプリングを行い,アオコ群体共存細菌及び遊離細菌を毎月各50株程度分離した。各分離株について,プロテアーゼ活性(スキムミルク),溶藻活性及び藍藻の増殖促進活性について検討した。調査期間中,アオコ原因ラン藻Microcystis spp.は,6月から7月にかけて増加し,その後9月まで圧倒的に優占したが,10月には減少傾向を示し,11月にはほぼ消滅した。分離後維持できた432株の細菌は,いずれも明確な溶藻活性および増殖促進活性を示さなかったが,118株がプロテアーゼ活性を示した。6月および10月には,共存細菌の50%程度がプロテアーゼ活性を示したが,アオコの最盛期である7月から9月には活性を示したものは20%以下であった。また,共存細菌,遊離細菌ともに,その細菌相は,アオコの最盛期である夏季とそれ以外の月とでは,明確に異なっていた。 さらに、実際にアオコ群体がプロテアーゼインヒビターを産生しているか否かを検討するために、千葉県手賀沼に備え付けられたアオコ回収装置からアオコ藻体を杯集した。この藻体を、含水メタノールで抽出し、プロテアーゼ阻害活性を指標に、各種クロマトグラフィーにより精製を行ったところ、micropeptin、aeruginoshin、microginin関連化合物が得られた。これらの化合物は強いプロテアーゼ阻害活性を示した。この結果は、野外環境においても淡水産藍藻類がプロテアーゼ阻害物質を産生していることを示すものであり、その生態系内における役割を考えるうえで重要な結果であると考えられた。
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