研究概要 |
血管には拡張神経の存在も知られており,摘出血管壁に経壁的に電気刺激を与えると弛緩反応が生じる。しかしながら,この神経を介した弛緩反応に対するエタノールの影響はいまだ検討されていない。ニコチンは種々の血管において経壁的電気刺激と同様にneuro-transmitterを放出させる作用をもっている。平成10年度においてラットの上腸間膜動脈を用いてニコチンの弛緩反応に対するエタノールの影響を検討した。血管を支配する神経の末端から遊離される拡張物質としてVIP,ATP,calcitonine gene related polypeptide(CGRP)やsubstance Pなどが知られている。ethanolはニコチンによる弛緩反応を抑制した。従って,本年度はこの抑制機序を明らかにすべく実験を行った。ニコチンの弛緩作用はVIP阻害剤,basilen blue,indomethacinで抑制されなかったことからVIP,ATP,prostacyclinの関与は否定的であり,またsubstance Pはニコチンと異なって内膜依存性弛緩反応を示すためこの物質の関与も否定された。またN^G-nitro-L-arginineによりニコチンの弛緩作用は抑制傾向はあったものの有意ではなかったことから,NOの関与は少ないと考えられた。一方,capsaicinは神経末端に貯蔵されているCGRPを枯渇させる作用があり,ニコチンの弛緩作用はcap-saicin処理により明らかに抑制されたことからCGRPが関与していることが考えられる。またニコチンの弛緩作用はCa-free mediumで著名に抑制された。この結果はCGRPによる弛緩反応はCaに依存しているという報告と一致する。従って,ethanolによるニコチンの弛緩反応の抑制は主としてCGRPを介した作用と考えられる。またethanolは外因的に投与したCGRPの弛緩反応を抑制しなかったので,その抑制作用は平滑筋ではなくpresynapticなレベルにあると考えられる。
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