本研究では、当初の目的通り、ヒト神経膠芽腫細胞GBA7を用い、ヒトIGF-IR cDNAを含むプラスミドをtransfectした細胞(A7(R))と、puromycin耐性遺伝子を含むプラスミドをco-transfectした細胞(A7(puro))の両者の細胞を作成し、両細胞におけるIGF-IRの発現状況と放射線感受性との関係を、単層培養と多細胞スフェロイドの両方の条件において検討した。その結果、IGF-IRはsurvival factorとして細胞死抑制効果を示し、その効果はが多細胞スフェロイドにおいて壊死部の形成を抑制する形で現れた。このことは、IGF-IRを過剰発現している腫瘍細胞から構成される固形悪性腫瘍では、壊死部の形成が抑制され、そのため腫瘍の発育速度が速く、低酸素状況下でIGF-IRはsurvival factorとして作用している可能性を示唆している。しかし、多細胞スフェロイドにおける、腫瘍細胞の放射線感受性を調べると、予想に反して、A7(R)のスフェロイドの方がA7(puro)のそれにおけるよりも高い細胞放射線感受性を示した。このことは、IGF-IRを過剰発現している腫瘍細胞に対する放射線治療効果は、1回線量の大きさに大きく依存することを示唆するものである。 低酸素条件を厳密に制御出来る実験系を確立するため特製の低酸素チェンバーを作成し、酸素濃度を酸素分圧3mm Hg以下の条件で培養するシステムを完成した。この実験目的には、IGR-IR発現が全くない細胞である、IGF-IRノックアウトマウス由来の繊維芽細胞(R-)と、この細胞にヒトIGF-IR cDNAをtransfectして過剰発現させた細胞(R+)の両者の細胞を用いることが必要で、両細胞系を樹立し、それらのIGF-IR発現状態を確かめた。低酸素状況下での両者の細胞の生存時間と放射線感受性を調べると、予想通りIGF-IRは細胞死抑制効果を示し、IGF-IR発現と低酸素下での細胞の放射線抵抗性との関連性が明らかにされた。 定常状態に達した、両細胞を低酸素状態で培養すると、短時間で(R+)細胞がペトリ皿壁から剥がれることから、低酸素条件下における細胞生存時間と高細胞密度は密接な関係を持つことが考えられる。
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