研究概要 |
メタロチオネインは組織中でカドミウムなどの有害重金属と強固に結合してその毒性の発現を抑制する生体防御蛋白質である。カドミウムは穀類中に比較的高濃度に存在するため,米類を多食する日本人は欧米人に比べて組織中カドミウム濃度が高い。カドミウム毒性の主要標的組織は腎臓であるが,日本人の腎臓中に蓄積しているカドミウムはそのほとんどがメタロチオネインに結合して存在しており,一般成人の腎臓中に蓄積しているカドミウムの濃度はメタロチオネイン遺伝子を欠損させたマウスを死に至らす濃度の数倍にものぼる。したがってマウスと人間の種差を無視すれば,メタロチオネインは日本人の生存に不可欠な蛋白質と考えることができる。このようなことから,本研究申請者らは予備的に日本人腎臓中のメタロチオネイン濃度を測定したところ,その濃度が極端に低い日本人が存在することを見いだした。そこで,さらに多くの例数について同様の検討を実施した。神奈川県内で死亡し24時間以内に法医解剖された55例について腎臓中のカドミウム濃度を測定したところ,加齢に伴う有意な増加が観察された。メタロチオネイン濃度もカドミウム濃度と強い相関を示したが,カドミウム濃度が高値を示すにも関わらずメタロチオネイン濃度の低い日本人が存在することが今回の検討でも確認された。この低メタロチオネイン症が生じる原因として遺伝子の異常が考えられることから,次に,低メタロチオネイン症の人々の腎組織中でのメタロチオネイン遺伝子およびそのプロモーター領域における塩基配列異常の有無の検討に着手した。まず,メタロチオネイン遺伝子の塩基配列異常を検出する方法を検討したところ,一本鎖DNA高次構造多形検出法がこの目的に適していることが判明した。現在,本法を用いて腎臓中でのメタロチオネイン遺伝子異常を検索中である。
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