平成11年度は当該研究の第2カ年目として、『三条家装束抄』『曇花院殿装束抄』などの装束に関する文献資料から武士の装束、殊に狩衣系および直垂系の服飾にまつわる記述を抽出しデータベース化する作業を推進するとともに、徳川家・伊達家・前田家などの装束類および絵画資料の調査を行った。その過程で、日光東照宮蔵の東照大権現御神服関係資料を精査し、その構成と特徴について新知見を得た。もとより東照宮の御神服は近世の資料であるが、その形式は中世以前からの様式を踏襲するものであり、家康画像との関係が緊密であるという点において本研究の「服飾の視覚イメージ」を考察するうえで稀少かつ重要な資料と判断される。東照宮蔵の御神服は他の多くの場合と同様に公家の最上級の装束である束帯を以て当てられているが、縫腋袍でありながら半臂を完備する点や家康の束帯画像に準じた地紋の袍を調製している点などにその特殊性が認められる。また、束帯とともに保管されている御神服の小袖についてはいままでその意義が十分に理解されていなかったが、三代将軍家光が描かせたと伝えられ日光山輪王寺に収蔵される一連の「霊夢の画像」のうちの「白衣像」に対応して調製されたものであることが今回の調査によってほぼ明らかとなった。これは、小袖といういわば格下の衣服が、"家光が夢にみた家康のイメージ"という特殊事情によって神服に昇格したものであり、画像の視覚イメージが具体化した稀有な事例として注目されるものである。
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