本研究は、桃山時代に発生した絵画メディアである折本画帳に焦点を当て、比較メディア論的観点からの問題開発を行おうとするものである。今回は、三年計画のうちの第一年度であるが、(1)基本資料の整備とともに、(2)パイロット的研究として、特別に選んだ二つの作品の調査を行った。基本資料の整備では、(1)中国の法帖、書画册についての文献史料探索、(2)日本の日記、随筆、両論を対象とした画帳関係史料の探索、(3)17世紀末を限度とした現存画帳作品の総目録作成に着手し、相当の成果を上げることができた。(1)では、『歴代著録画目』(3册)『画史叢書』(4册)を網羅的に調査して、法帖、書画册の史料総目録を作成した。これはデータベース・ソフトのファイル・メーカーを用い、「書画册データベース」として、題名、主題、ジャンル、時代によって多元的に検索できるものとなっている。(2)では、両論に関してとくに重点的に調査を行ったが、『日本絵画論大系』全5册の網羅的調査に基づき、(1)と同様、ファイル・メーカによって「画帳データ・ベース」を作成した。また日記のうち、最も重要と思われる鳳林承章の『隔冥記』を調査し、画帳年表を作成した。(3)は今年度ではまだあまり成果を上げることが出来ていないが、基礎段階として、美術館、図書館の収蔵作品目録を見て回る作業を行っている。(2)の作品調査は、東京国立博物館所蔵の土佐光則作『雑画帳』と、京都国立博物館所蔵の土佐光吉作『源氏物語画帳』について行った。後者は、桃山時代に出現した画帳の社会的機能の一つが、王朝古典文化の復古・保守と深いつながりを持つことを思わせる典型的な作例である。初期画帳に多い源氏、伊勢、歌仙の主題群を代表するもの。後者は、曖昧な題名に災いされてか、その位置づけが定まらないきらいがあったが、内容から明らかに「十ニヶ月絵」と呼んでよく、やはり伝統保守の傾向を強く示している。
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