研究概要 |
質問紙法による性格検査項目への回答が,被検者のどのような心理的過程の結果として決定されるかを,反応潜時を指標として検討する。この反応潜時を規定する要因の最大のものは記憶におけるself-referent効果である。項目の記述内容が各自が持つ性格特性(自己についてのシェマ)に近い項目を肯定するときの反応潜時は,その逆の記述内容の項目を肯定するのに比べ短い効果である。しかし,質問紙の項目への回答には,自己についてのシェマを参照するだけでなく,反応の偏り(response biase)も影響していることが,多くの研究から知られている。この影響を調べるためには,性格検査に利用されている項目について,社会的望ましさ,黙従傾向を引き起こす程度,隠蔽性などを測定しておく必要がある。本課題では,比較的これらについてよく検討されているMMPIの項目を使う。ただし,新日本版ではまだ測定されていない隠蔽性と黙従傾向の強さを測定する必要がある。 今年度は,まず隠蔽性を測定した(被検者245名)。今回の調査で特徴的なことは,各項目が「正常」か「異常」かを4段階で評定するための選択肢以外に,「正常」か「異常」を測定するのに適切でないという選択肢を加えた点である。「正常」か「異常」を測定するのに適切でないという選択肢の多い項目が本来の項目隠蔽性と考えた。現在結果の整理中である(日本心理学会第63回大会において発表予定)。 また,黙従傾向については,オリジナル項目と肯定否定を逆転した項目(逆転項目)で構成された逆転版テストを作成し,これらの2つの版への回答の比較から検討する予定にしている。評定者50人に,逆転項目がオリジナル項目と肯定否定が反転しているかを評定させた予備調査の後に項目内容を決め,調査票を今年度作成した。 反応潜時測定用のプログラムは,Java言語による作成を手がけたところである。この言語はOSを選ばず動作するという点が最大の選択理由である。
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