研究概要 |
1. ヨーロッパにおける「精神」(Geist)概念の系請について,初期古代ギリシアの哲学者アナクシメネスにいう「プネウマ」(pneuma)までさかのぼって吟味するにあたり,古代ギリシア語ならびにラテン語のうち18世紀ドイツで「精神」(Gecist)およびその派生語を用いてドイツ語訳された単語や概念を探るという方法で,18世紀ドイツにおける「精神」(Geist)概念の解明を試みた。たとえば,キケロにおける「狂気」に相当するラテン語(furor)は,デモクリトスにおけるギリシア語「プネウマ」に対応する意味をもつ概念として,18世紀ドイツのゴットシェートにより「精神を吹き込まれた状態」を意味するドイツ語(Begeistening)をもって翻訳されている。訳語を媒介としたこのような概念分析の方法を用いることがきわめて有効であることを考慮すると,「プネウマ」のラテン語訳とされる「スピーリトゥス」(spiritus)についても,その概念を分析するにあたっては,そのドイツ語訳「霊」/「霊魂」(Scele)など「精神」の同義語や類義語についても,概念史的に解明する必要のあることが確認された。 2. ヘーゲルの『美学講義』において,「精神」概念を「プネウマ」の訳語としてとらえ,その汎神論的原義にさかのぼって解釈することにより,難解とされる各所を明解に解釈できることが確認された。その際,「精神」(Gest)の概念と同じ地平にある「概念」(Begrifl)や「理念」(Idee),「真理」(das Wahre/Wahrheit)など,ヘーゲル哲学の中心的諸概念の理解にもつながり,「精神」=「ブネウマ」と理解して,「精神」の概念について,ヘーゲル以前の概念史をさかのぼることが,ヘーゲル哲学の中心的諸概念の新たな解明にも資するとの感触を強めた。 3. 中国哲学研究者との討論を通じて,東洋思想における「気」の概念と「プネウマ」概念との並行的対応関係を分析することが,西洋哲学の研究ばかりでなく中国思想の研究にとっても大きな意義を有することが確認された。
|