研究概要 |
初期古代ギリシアの哲学者アナクシメネスにいう「プネウマ」(pneuma)までさかのぼってヨーロッパにおける「精神」(Geist)概念の系譜を吟味するにあたり,「プネウマ」の類義語ともいうべき「エーテル」(aither/aether)を概念史的に追跡したところ,近代ではライプニッツにおいて,この概念が重要な役割を果たしていることを確認した。これは,古代ギリシア語ならびにラテン語のうち18世紀ドイツで「精神」(Geist)およびその派生語を用いてドイツ語訳された単語や概念を探るという方法を,昨年に引き続いて援用した成果である。加えて,少なくとも初期ライプニックにおいて,「エーテル」概念は「プネウマ」のラテン語訳とされる「スピーリトゥス」(spiritus)とも密接に関連している。その際,物質性とともに精神性をもあわせもつ「プネウマ」に特徴的なニ面性のうち,前者には「エーテル」概念が,後者には「スピーリトゥス」概念が用いられ,それぞれ概念的に使い分けられているとの感触もえた。この点の立ち入った検証とともに,このライプニッツの思想が18世紀ドイツにおける「精神」概念に与えた影響も,追跡する必要がある。初期ヘルダーリンにおいて,ストア的汎神論の系譜につながる思想が,スピノザよりもむしろライプニッツの哲学を援用して構築されていることは,初期ライプニッツの「エーテル」/「スピーリトゥス」論から説明できる可能性がある。ドイツ観念論に対するスピノザの影響が強調されてきた従来の研究に抗して,ライプニッツからヘルダーリンに直結する「精神」の系譜が解明されれば,この概念がドイツ観念論において基幹概念へと上昇する過程を分析するうえでも,きわめて示唆に富む新たな成果が期待されよう。これは来年度の重要課題のひとつとなる。また,東洋思想における「気」の概念にも物質性と精神性とのニ面があるので,この点に着目して東洋の「気」と西洋の「精神」とを比較対照する研究も,来年度の課題である。
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