研究概要 |
本年度はまず,未解決部分を含むカレンダー部分を統一的に修正し,最終版の本文作成をめざした。ただし依然若干の未読部分を含む。これを底本として正順の語彙総索引を再度試作した。さらに専門家に依頼して逆順索引も試作した。両者ともに,聖書のコンコーダンスに倣い,見出し語を中心に前後3語を機械的に引用し,見出し語の形態・意味等の峻別手段とした。本文内容に関し,第1は形容詞類の長・短両語尾形につき,第2は動詞の時制形態につき研究を行なった。前者の結論は,Arch全体において(1)形容詞長語尾形は非縮約形で綴る傾向あり。(2)長語尾・同縮約形・短語尾の何れであっても形容詞は,テトラのMarに対して当然ながらアプラコスと同形で綴られる傾向あり。(3)Ass, Marの定語ないし名詞として用いられる形容詞語尾が,指示的意味を付加することなく機械的に長語尾形に書き変えれる徴候あり。一方Arch^2のみに特異な例として,(4)hapaxであるが,Ass, Marで述語としての短語尾形を長語尾形とする1例。(5)上記(3)に反し,Ass, Marの定語として長語尾形に対し,指示的意味を有するにも拘わらず,短語尾形綴る若干例あり。(6)事物を総括して表現する名詞として,OCSの長語尾形容詞・中性・複数形に対し,短語尾・中性・複数形さらに短語尾・中性・単数形を用いる若干例あり。上記(1)〜(6)はいずれもOCSの規範と口語の東スラブ語との相剋状況を呈していると解される。第2の研究では,Archにおける特に動詞の時制形態にかかわる異読箇所,さらに言い換え等についても,カノンからの逸脱によるものではなく,いわばビュザンツ文化を背景としたコピスト達の工夫による対応策である。すなわち編集によるものと考えうると結論づける。
|