平成10年度から4年間にわたり『アルハンゲリスク福音書』を主たる題材に古代ロシア文語や萌芽期における特性の研究を行なった。これは、先に平成7年度から3年間、科研費の下でなされた「古代教会スラブ語の地方的変種から古代ロシア文語の萌芽にかかわる研究-『アルハンゲリスク福音書』を中心として-」をさらに発展させたものである。 本研究では、同福音書の正順及び逆順の本文語彙索引の作成が是非とも必要である。このため具体的に行なった作業は、『アルハンゲリスク福音書』のテクストのコンピューター化であった。この作業には、明治大学助教授石川幹人らの協力があった。入力されたデータの点検と活字化されたテクストの校正を行ない、この修正本文によって正順の語彙索引を作成した。その結果、いくつかの問題点が明らかになった。それらを解決し、活字化テクストと正順語彙索引をさらに改良した。併せて逆引きの語彙索引も作成した。ただし、いずれについても、一般の利用に供するにはまだ若干の手直しが必要である。この索引を活用し、岩井は『アルハンゲリスク福音書』における形容詞の短語尾形と長語尾形の用法に関する論考を執筆した。 上の作業と併行して、岩井は、同福音書を、写字生の違いに基づく形式的な前半と後半という分け方ではなく、シナクサリオン(教会暦に基づいて聖句を配列編集した部分)とメノロギオン(世俗の暦に基づいて聖句を配列編集した部分)とに分けて、読み直し作業をした。この読み直しは、本文語彙索引のデータの正確化と同福音書カレンダー部分の理解に大いに貢献した。 4年間にわたる成果を、岩井は文献学的な視点から整理し、『アルハンゲリスク福音書』本文全体の特徴にわたる論考を纏め上げた。共同研究者の服部は、言語学的な視点から同福音書の動詞過去時制の用例に関する特徴を分析した論考を書いた。これらを平成13年度末に成果報告書として刊行した。
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