当該事業の独占性と提供されるサービスの必需性を中核として構想されてきた伝統的な公益事業の観念は、規制緩和を通じた競争導入に伴ってパラダイムの転換を伴う基本的修正を余儀なくされている。法律制度論として、今後の公益事業の概念は、一つには市場支配的な地位にある事業者の保有するネットワークに対するアクセス保証を中心に、独占承継者の市場支配力に対する各種の防止措置に代表される、いわば規制を通じての競争促進というアイデアを、二つには、にもかかわらず依然として社会生活上重要な意義を有するサービスの最終的確保のための、いわゆるユニバーサル・サービスの維持・保証というアイデアを中軸として現に組み立てられていると理解でき、またそう構築されるべきである。 また、このとき独占禁止法に体現される競争政策の課題として、(1)規制発動のための各論的な基準となる議論を具体的な局面ごとに深化させなければならない。(2)そのためにも、事業法規制と独禁法規制の相互関係を明確化する一般理論を再検討ないし再構築することが求められる。(3)公取委の組織論や審判・審決の手続制度論についても、各種公益事業に対する独禁法適用の特性を考慮した上で、手直しや整備が必要ないかどうか検討しなければならない。また、もしその必要があるとすれば、具体的にどのような部分について、いかなる改革方策があり得るのかを積極的に提示すべきである。規制緩和の時代に応じた、公益事業概念の変容と競争政策に関する以上の認識を前提に、今後とも実務的に両者の適切なインターフェイスを図るための検討が一層進められなければならない。
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