本年度は、当初の計画を踏まえながら以下の点について研究を進めた。 1.ニース条約の交渉過程およびその結果を分析し、拡大EU内部で勢力バランスの変化が生じつつあること、大国と中・小国との利害対立が激しくなっていることなどを明らかにできた。 2.上記に関連して、EU内の小国であるベネルックス3国が、拡大するEU内で、小国の利益を養護するために、以前よりEU統合の深化に積極的にならざるを得なくなってきた傾向を論文にまとめ、日本EU学会年報で発表した。 3.ニース条約により、EU側が次期拡大に向けての最低限の機構改革が整ったことや、加盟申請国との交渉の進捗状況に国ごとの差が少ないことから、EU側が2002年中にもキプロス、マルタ及び中・東欧の8カ国の合計10カ国との加盟交渉を終結する見通しに至った点を明らかにできた。また、米国同時多発テロがEU拡大の進展にとって政治的追い風になったとも考えられる。いずれにせよ、EU拡大は「ビッグバン方式」で進むことになり、欧州秩序の再編が急速に進展することが予想されるが、その方向性はまだ未確定であり、2002年2月末に始まる諮問会議において、今後のEU統合の将来像の議論が行われる予定である。 昨年度までは大幅なEU拡大にはまだ数年必要ではないかとの見通しを持っていたが、2002年中に10カ国が加盟交渉を終結する見通しが急遽打ち出されたため、研究最終年度である本年度中に全容をまとめる計画を変更せざるを得なくなり、全容を整理した研究成果は2002年の加盟交渉終結を待って発表する予定である。
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