本研究により新たに得られた知見は以下の通りである。 1.EUの次期拡大は、これまでのEU拡大のケースとは、そのプロセス、規模、質の面で大きく異なることが明らかになった。EU側が明確な拡大方針を持たないまま拡大プロセスが進行してきたこと、ボスニア紛争やコソヴォ紛争といった外部要因から、安全保障面での配慮が色濃く反映されていること、EU側が自らの内部改革の必要性に迫られていることなどが指摘できる。 2.一般にEUの次期拡大の焦点は中・東欧諸国に当てられるが、マルタ、キプロス、トルコといった地中海諸国が同時にEU加盟に向けて動いており、EUの南方拡大の重要性を改めて確認することができた。特にEUの東方拡大と南方拡大の均衡という視点に注目した。 3.EUは自らの内部改革の第1歩として1997年にアムステルダム条約を調印したが、次期拡大に備えた機構改革では合意に至ることができず、2000年12月のニース欧州理事会において、EUが27カ国に拡大することを前提とした最低限の機構改革で合意が形成されたプロセスを明らかにした。 4.EUの拡大が進むにつれて、中・小国の数が急増しており、EU統合の主導権を握りたい大国(英、仏、独)と中・小国の対立構図が明確になってきた。ベネルックス3国の欧州統合政策を事例研究として取り上げ、小国が連邦主義的なEU統合の必要性を強く主張することで、大国とのバランスを保ち、自国の利益を守る必要性に迫られている現実を指摘した。 以上のような個別研究の積み重ねにより、EU拡大が欧州の国際システムや国民国家の役割の再検討を促し、新たな政治システムが欧州大陸全体に構築されつつあることを明らかにした。
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