メタ個体群の維持存続機構を解明するためには、局所集団の動態・空間的配置を把握する必要がある。しかしながら、多数の局所集団を追跡するのは困難であり、野外調査は滞っているのが現状である。近年、Hanski(1994)は、いる・いないの簡便なデータのみで示されるパッチ占有モデルが動態予測の手法として有用であることを提唱した。このモデルでは絶滅率は各パッチ(生息可能場所)の大きさ、新生率は近接集団の距離を変数として表わされる。本年度は、北海道中部を流れる空知川に生息するサケ科魚類のオショロコマをモデル生物として広域な野外調査を行ない、パッチの大きさ・パッチ間の距離(隔離度)といった空間的パラメータが、オショロコマのパッチ占有確率におよぼす影響を評価した。オショロコマは流量5.0×10^3cm^3/sec以下の支流では確認されなかった。したがって、これより大きい支流を潜在的な生息可能空間として解析を行なった。オショロコマのいる・いないを目的変数としたロジステック回帰分析をおこなったところ、大きい支流ほどオショロコマの存在確率が高くなることが明らかとなった(P<0.0001)。このことから、小さい支流では絶滅確率が高いことが示唆された。一方、隔離による効果は認められなかった(P<0.79)。また、新生率は近接集団との距離に依存しなかった。昨年度の遺伝的解析から、支流集団間の交流には距離による隔離が働いており、遺伝的浮動と平衡状態にあることがわかっている。このことから、支流間の移動が非常に頻繁に起こっており、距離に関係なく局所集団の新生が行なわれる(あるいは絶滅が起こらない)、Patchy Metapopulation構造であると考えられた
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