研究概要 |
心臓をモデル化するにあたって,その構成素子である細胞のモデルとして最も実際の生理学に近いHH型方程式について検討を行った.その結果,イオンチャネルの動的特性を表す時定数間に大きな開きがある場合,カオス的な振動が起り易いこと,また,その発生メカニズムを明らかにした. この結果を踏まえ,2次元の興奮性媒質のモデル化を行った.HH型方程式は多変数の非線形微分方程式であるので,それを用いて興奮性媒質をモデル化すると計算時間が多大にかかるだけでなく,興奮性媒質全体のマクロな挙動とセルのミクロな性質との関係を議論するのは困難である. よって本研究では,セル(実際の細胞1個もしくは複数の細胞を表す)のモデルとして,一次元の写像モデルを用いた.このモデルは,細胞の持つ不応性,「擬」閾値性を表すことができる.擬閾値性とは,0か1かの完全な閾値性は持たず,厳密には連続な入出力特性を持つが,ある値を境に急激に入出力特性を変化させるので,近似的に閾値を持つと考えられる性質である.この擬閾値性こそがカオス等の複雑な非線形ダイナミクスを生み出すもとになる.つまり,本研究で用いた一次元写像モデルは,その単純さにかかわらず,相当複雑なマクロなふるまいを記述できる優れたモデルである. この写像結合系(Coupled Map Lattice or Chaos Neural Network)を用いて,2次元興奮性媒質上で電気的興奮波が伝播する様子を詳細に解析した.その結果,単純な同心円状に伝わる興奮波や渦巻状の波(Spiral wave)の生成条件を明らかにすることができた.特に,細胞の発火履歴を表すメモリーの効果が大きい場合,渦巻波が途中で分裂する時空間カオスの状態も生起し得ることを確認した.
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