研究概要 |
心臓を始めとする生体システムは,自律的に活動する構成要素(細胞・細胞集団)が複雑にネットワークを形成した大規模自律分散システムである.このようなシステムをモデル化するには,ネットワークの構成要素の数やネットワークの結合形態,構成要素のモデル化手法などの変更に対して柔軟にシステムを変更できるシミュレーション環境が必要である. 本研究では,一個の細胞(場合によっては,その一部や細胞集団)を一つのプログラムでモデル化し,細胞間の結合(化学シナプス結合,電気シナプス結合)を計算機ネットワーク上のプロセス間通信機能によって実現することで,このようなシミュレーション環境の構築を行った.プログラム言語としては,オブジェクト指向性,通信機能の実装の容易さなどの点からJava言語を用いた.構成要素のモデル化には,現時点で最も生理学的に妥当なモデルであるHodgkin-Huxley型微分方程式を用いた.プロセス間通信にはUDP通信を用いることで,神経系や心臓における(化学,電気)シナプス結合を表現した.UDP通信では,通信のパケットが相手先に到着することを保証しないが,本研究では,細胞間の様々な結合形態に対して計算機実験を行うことにより,実際の生体システムの挙動をうまく模擬できることを確認した.特に,電気シナプスは化学シナプスとは異なり,常時結合しているので通信量が増加するが,そのような場合においても,本システムがうまく動作することを確認した. また,前年度に引き続き,複数の時間スケールを持つ電気的興奮の非線形ダイナミクス,興奮性媒質における渦巻興奮波発生の機序,生体内振動子に及ぼす雑音の影響についても詳細な解析を行った.
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