研究概要 |
心臓を構成する(筋肉)細胞は,外部から刺激入力を受けると一過的に大きな電位を発生し(同時に収縮する),その後,刺激入力を受け付けない不応状態を経て,再び興奮可能な状態にもどる.このような細胞は興奮性細胞と呼ばれ,心臓だけでなく,脳・神経系や各種臓器など生体内のありとあらゆるところに存在している. Hodgkin-Huxley(HH)方程式は,ヤリイカ神経細胞の数理モデルであるが,興奮性細胞の最も基本的なモデルである.本研究では,まずHH方程式の背後に潜も複雑な非線形力学を,力学系の分岐理論,特異点理論の観点から詳細に解析し,興奮のメカニズムを明らかにした.また,このHHダイナミクスの背後には主に2つの異なる時定数をもつプロセスが関与しているが,生体内,とりわけ心筋細胞には,それ以上のプロセスが関与している.従って,本研究では,拡張HH方程式を提案し,異なる時定数を持つ複数のプロセスが相互作用する場合の興奮ダイナミクスの詳細を明らかにした. HH方程式は,現時点で最も生理学に忠実なモデルである.心臓のような大規模な自律分散システムをモデル化するためには,その構成要素(細胞)として,このように生理学に忠実な詳細モデルを用いることが最善ではない.単純化モデルを用いた方が構成要素の性質と心臓のマクロな性質との対応が分かりやすいことがある.本研究では,心筋細胞モデルとして拡張FitzHugh-Nagumoモデルやカオスニューロ写像モデルを用いて興奮性媒質をモデル化し,その非線形ダイナミクスを詳細に解析した.この結果に基づき,現在心臓不整脈の重要な原因の一つとして考えられている,興奮性媒質に生じる渦巻興奮波を抑制する制御方法を提案した.
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