熱帯産マメ科樹木のペルナンブコやログウッドの抽出成分、すなわちプロトサッパニンBやヘマトキシリンが木材の損失正接を低下させる機構の解明及び生物劣化抵抗性を付与する天然化合物の探索を目的として研究を行った。成果は以下の2点に要約できる。 その第一は、ヘマトキシリンの含浸による損失正接の低下機構に関するものである。前年度の範囲で、ヘマトキシリンの有する4個のフェノール性水酸基の水素結合形成に対する関与が示唆されたが、これらの水酸基をメチル化しても、損失正接に対する影響が見られなかったことから、この推定が否定され、むしろ1個のアルコール性の水酸基と環の酸素原子の共存が損失正接低下の必要条件ではないかとの示唆を得た。また、ヘマトキシリンと化学構造が部分的に共通する数種の化合物を合成し、これを含浸したが、損失正接を低下させる物質は見いだせなかった。このことから、部分的な構造の類似性だけではなく、ヘマトキシリンと同等の分子サイズや剛直な化学構造も必要条件であるとの考えに達した。一方、広範な相対湿度下での振動測定から、ヘマトキシリンの含浸による損失正接の低下は比較的相対湿度の低い領域に限られ、共有結合による架橋構造の形成との相違が明らかになった。 第二は、生物劣化抵抗性に対する天然化合物の探索に関するものであり、耐朽性が高いとされている、ブラジル産樹木のBagassa guianensisの抽出成分中に、耐蟻性・耐朽性を有する化合物を見いだした。また日本産樹木のカキの黒変部も耐蟻性・耐朽性が高いことが見いだされ、これにはポリフェノール系化合物の関与が示唆された。 以上の成果は学会、シンポジウム、学術雑誌で発表した。
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