ラビリンチュラ粘菌類は、沿岸海域の大型海藻や水生植物の体表面に付着して生存し、これらの大型植物や付着藻類とさまざまな相互関係を有しているものと考えられる。本研究では、鹿児島県沿岸海域の海水および海藻試料からラビリンチュラ属粘菌を分離し、その生態学的特性、増殖特性、殺藻性および分子分類について解明することを目的とした。ラビリンチュラの分離は、珪藻二重寒天平板に試料を混合して光照射培養した時に形成される大型のプラーク内にラビリンチュラの紡錘型細胞が存在するのを確認してから、その一部を新しい珪藻二重寒天平板に移植して行った。ラビリンチュラの大量培養には、卵黄平板または死菌体平板培地を用いた。得られたラビリンチュラ菌体から脂質画分およびDNAを抽出して、それぞれ脂肪酸および塩基配列の分析に供した。 これまでに以下の結果が得られたのでその概要を示す。 1. ラビリンチュラ粘菌は、沿岸域のアマモやスジアオノリ等の植物体表面から高頻度で分離された。 2. ラビリンチュラ細胞は、外形質膜内を滑走運動により移動し、珪藻細胞と接触した場合に藻類細胞質を吸引して消化する過程が観察された。 3. ラビリンチュラ細胞は、珪藻や細菌由来の極性脂質画分を添加した時に増殖が促進され、珪藻や細菌の生細胞を添加しない培地でも培養できることが分かった。 4. ラビリンチュラ細胞の構成脂肪酸としてDHA含量が高く、培養条件により含有率85%まで増加することが明らかになった。 5. 18SrDNAのPCR増幅産物の塩基配列から分子系統樹を構築した結果、分離株はラビリンチュラ類のなかのLabyrinthuloides属に近縁であることが確認された。
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