研究概要 |
ラミニンはα,β,γの3鎖からなるヘテロ3量体タンパクで,基底膜の主要構成成分である.5種のα鎖,3種のβ鎖,3種のγ鎖が知られており,これらの組み合わせによるラミニン1〜12の12種のアイソフォームが組織特異的に発現する.マウス顎下腺の形態形成初期(胎生13日)の上皮基底膜にはラミニンα1鎖とα5鎖が発現する.本研究ではこのα5鎖の機能を明らかにするために,α5鎖Gドメインに由来する15種の細胞接着活性合成ペプチドをin vitroの唾液腺器官培養系に添加し,それらの機能を調査した.α5鎖由来ペプチドを250μg/mlで添加し,3日後に外植体を調べたところ,α5鎖のアミノ酸残基3307-3318に由来するLVLFLNHGHFVA配列(以下A5G-77)に唾液腺原基の分枝形態形成を阻害する活性を認めた.A5G77のC末の3アミノ酸を削ったLVLFLNHGH配列(A5G-77f)には同様の阻害活性を認めたが,N末を削ったFLNHGHFVA配列は活性を失っていた.A5G-77fのアミノ酸配列をスクランブルしたA5G-77fSペプチドは顎下腺の器官発生になんら影響をおよぼさなかった.従来報告してきたα1鎖由来ペプチドのAG-73処理(Dev.Dyn.(1998)212:394)では基底膜の形成障害が観察されているのに対して,α5鎖由来のA5G-77f処理では基底膜の連続性が保たれた.A5G-77とAG-73はともにGドメイン中のLG-4サブドメイン上にマップされる.両ペプチドの作用の様式が異なることは,α1鎖とα5鎖がそれぞれ異なった機能を果たすことを示唆する.上皮基底膜にはさまざまなラミニンα鎖が,器官や発生のステージ,さらには上皮のそれぞれのセグメントに特異的に発現するが,そこに発現するラミニンα鎖のLG-4サブドメインが上皮組織形態の多様性をコントロールする可能性がある.
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