研究概要 |
小腸粘膜上皮細胞の加齢に伴う増殖能の変化を解明するため,幼少(哺乳期を過ぎ固形食の摂取を始める5週齢の雄性ルイスラット)ならびに成熟ラット(生存率が下がり始める60週齢ラット)の小腸における,72時間絶食解除後の組織形態,前初期遺伝子群の一種である核内転写因子c-fosとc-junのmRNAと蛋白の発現,増殖細胞核抗原(proliferating cell nuclear antigen,PCNA)を用いた細胞増殖活性の時間的推移を検討した.組織形態的に,幼少群の絨毛伸長は絶食解除後48時間で非絶食群の絨毛高に回復したのに対し,成熟群の絨毛伸長は緩慢で,絨毛高の回復に96時間を要した.c-fos,c-jun mRNA発現量は,幼少群では絶食解除後2時間から72時間まで増加し,絶食解除後2時間で非絶食群に比較しc-fosは最高3.1倍,24時間でc-junは最高2.8倍に増加したのに対し,成熟群ではc-fos,c-junともに有意な増加を認めなかった.また,免疫組織化学染色では,幼少群の絶食解除後の粘膜増殖帯と吸収上皮でc-Fos,c-Jun蛋白が陽性に染色されたのに対し,成熟群では増殖帯のみに1腺管当たり2〜7個の陽性細胞がみられるにすぎなかった.PCNA標識率でみた細胞増殖活性は,幼少群では絶食解除直後より上昇を認め,絶食解除後2時間をピークに48時間まで成熟群に比較して有意に高い増殖活性を認めたのに対し,成熟群では絶食解除後72時間まで有意の上昇を認めなかった.以上より,転写因子c-fosとc-junの活性化が,小腸粘膜絨毛の増殖活性に関与し,加齢によるc-fosとc-junの活性化の欠如が成熟群での増殖能の低下に関連していることが明らかにされた.次年度以降は同実験群における蛋白代謝率を測定の予定である。
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