研究概要 |
前年度(平成10年度)は,ラット小腸粘膜上皮細胞の加齢に伴う増殖能の変化について検討し,転写因子c-fosとc-junの活性化が小腸粘膜絨毛の増殖活性に関与していること,また,加齢によるc-fosとc-junの活性化の欠如が増殖能の低下に関連していることを報告した.本年度は,小腸の阻血再灌流障害時における絨毛細胞の脱落と再増殖の機序を解明すめため,ラット小腸の阻血再灌流モデルにおいて核内転写因子c-fosとc-junのmRNAと蛋白の発現,増殖細胞核抗原(proliferating cell nuclear antigen,PCNA)を用いた細胞増殖活性[^<15>N]グリシンを用いた蛋白合性比速度,およびTUNEL法によるアポトーシス細胞の出現を経時的に検討した.上腸間膜静脈動静脈の20分血流遮断群(阻血再灌流群)と非阻血群(対照群)と比較し、以下のような結果を得た.(1)阻血再灌流群のc-fosとc-junのmRNAの発現は,再灌流後15分では対照群に比べそれぞれ6.3倍と4.4倍に増加した.(2)阻血再灌流群の細胞増殖活性は再灌流後5分から4時間までは対照群に比べ優位に増加し,再灌流後30分では対照群の4倍となった(3)阻血再灌流群の蛋白合性比速度は、対照群よりも高く,再灌流後2時間をピークに以後徐々に低下した.(4)対照群では絨毛の先端にわずかにアポトーシスを認めたが,阻血再灌流群では増殖帯を除く吸収上皮細胞に多数のアポトーシス細胞を認め阻血直後と再灌流後60分に2相性にピークを認めた.以上より,転写因子c-fosとc-junの過剰発現が,小腸の阻血再灌流後のアポトーシスの発現とその後の蛋白合性促進に関与していることが明らかにされた.
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