研究概要 |
これまで,ラット小腸粘膜上皮細胞の加齢に伴う増殖能の変化(平成10年度),および,ラット小腸阻血再潅流障害モデルにおける絨毛細胞の脱落と再増殖の機序(平成11年度)に関して,前初期遺伝子群c-fos,c-junに着目して検討し,その結果を報告してきた。本年度は,小腸大量切除後の残存小腸の代償的粘膜増殖における前初期遺伝子群c-fos,c-junの関与を明らかにすることを目的とした。実験にはラットを用い,空腸起始部より3cmの部位から回腸末端より3cmの部位までの小腸を切除した小腸大量切除群(約90%切除)と,空腸起始部より3cmおよび回腸末端より3cmの2カ所で小腸切離し吻合した対照群とを作製し,小腸大量切除群の残存小腸粘膜および対照群の相当部位の小腸粘膜において比較検討し,以下のような結果を得た。(1)小腸大量切除群の小腸粘膜でのc-fos,c-junのm-RNAの発現は術後2時間が最大で,対照群に比べそれぞれ5.09倍、3.47倍の過剰発現を示した。(2)c-Fos、c-Jun蛋白も小腸大量切除群の残存小腸で広範な発現が認められた。(3)増殖細胞核抗原(proliferating cell nuclear antigen, PCNA)標識率による細胞増殖活性は小腸大量切除群において有意に高値を示した。(4)[15N]グリシンを用いた蛋白合成比速度は小腸大量切除群において有意に高値を示した。(5)小腸粘膜ALP活性値は小腸大量切除群において有意に高値を示した。(6)小腸粘膜の組織像では,粘膜厚,絨毛高,陰窩深は小腸大量切除群において有意に高値を示した。以上より,小腸大量切除直後では,残存小腸での蛋白合成の亢進や粘膜増殖の前に,c-fos、c-jun遺伝子の過剰発現が認められることが明らかになった。
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