研究概要 |
【目的】本研究は平成10年度から平成12年度の3年間で、肺癌の分子生物学的特性と遺伝子異常の解析を行うことによって、特に肺腺癌の発生から転移能獲得までの過程を、遺伝子異常の蓄積と情報伝達機構への関与から明らかにすることである。 【平成10年度の成果】肺癌の発育過程と遺伝子異常(LOH)との関係について、野口らによる小型肺腺癌の新病理学的分類を用いて、長径2cm以下の小型肺腺癌94例を置換型で活動性線維芽細胞巣のない群(A・8型)40例、活動性捏龍芽刑胞巣を伴う詳(C型)30例、非置換型(D型)24例に分けて、PCR法で遣伝子異常(LOH)を解析すると、上皮内癌と考えられる肺腺癌に既に多くの染色体で対立遺伝子欠失が認められ、同一腫瘍内における病理所見の相違は遺伝子異常(LOH)の不均一性によることが確認された。また、17p染色体における対立遺伝子欠失の頻度は腫瘍の悪性増殖と関連があることが示唆された(Jap.J.CIn Oncol.1998)。一方、肺癌細胞のp53、rasの発現と予後の関係およびEGF-r、p125FAK、Eカドヘリン-カテニンの発現と予後との関係が明らかにされた(Lung Cancer,1997)。更に肺癌細胞の増殖・分化に関係するMAPキナーゼの活性とその情報伝達機構への関与について、肺癌患者の手術摘出標本10例を用いて検索すると、肺癌組織の癌部と非癌部で、MAPキナーゼ、MAPキナーゼ・キナーゼの発現の差は認められなかったが、MAPキナーゼ活性は非癌部より癌部において3例が亢進し、2例が低下していた。また、p125FAKは5例に亢進し、うち3例にチロシン燐酸化が認められ、MAPキナーゼ活性との関係を症例を増して検討している。
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