研究概要 |
[目的]本研究は平成10年度から平成12年度の3年間で、肺癌の分子生物学的特性と遺伝子異常の解析を行うことによって、特に肺腺癌の発生から転移能獲得までの過程と、遺伝子異常の蓄積と情報伝達機構への関与から明らかにすることである。 [研究成果概要]肺癌の発育過程と遺伝子異常(LOH)の関係について、上皮内癌と考えられる肺腺癌にすでに多くの染色体で対立遺伝子欠失が認められ、同一腫瘍内における病理所見の相違は遺伝子異常(LOH)の不均一性によることが確認された。また、17p染色体における対立遺伝子欠失の頻度は腫瘍の曳性増殖と関連があることが示唆された。一方、肺癌細胞のp53、rasの発現と予後の関係およびEGF-r,p125FAK,E・カドヘリン・カテニンの発現と予後の関係が明らかにされた。また、肺癌細胞の増殖、分化に関係するMAPK活性やSTAT3活性の情報伝達機構への関与について、肺癌79例ではMAPKの発現は癌部・非癌部で同程度で、STAT3の発現は癌部・非癌部で差があった。Phospho MAPKの濃度は癌部より非癌部に有意に高かった。PhosphoMAPKとSTAT3の発現との間に弱い逆相関がみられた。PhosphoMAPKの発現は組織型で有意差がなかったが、Phospho STAT3の発現は扁平上皮癌より腺癌において非癌部に比して癌部に増強していた。それ故、肺癌の癌化に対するシグナル伝達系ではMAPK系よりJAK/STAT系が優位な働きをしているかもしれない。他方、肺癌とWntシグナル伝達系活性化の関係をβ-カテニンの遺伝子変異およびその発現を中心にみると、肺癌166例中4例にβ-カテニンのexon3に点突然変異が認められた。このことより、一部の肺癌において、β-カテニンの活性化、すなわち、Wntシグナル伝達系活性化がその発癌あるいはその進展過程に関与している可能性が示唆された。
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