最近、味蕾の基底部に存在する基底細胞が味細胞や味覚神経線維末端と化学シナプスを形成していることが形態学的に明らかとなった。そこで、味蕾基底部の細胞がどのように味覚の情報を処理しているか関心が寄せられているが機能的なことはまるで分かっていない。私達は昨年に引き続き、カエル味覚器(味蕾内)の基底細胞の役割を調べた。昨年、パパイン酵素処理により遊離味細胞を得たり、味覚器の側壁を取り除いた味覚器を得る方法を確立したが、パッチ電極を基底部に存在する細胞にあて細胞の電気現象を記録するには至らなかった。今回、酵素処理をせずカエル味覚器(味蕾内)の基底部に存在する細胞にホールセルパッチクランプ法を適用できる標本を作成した。1ヶの円盤状味覚器の中央に鋭利なメスをあて味覚器を縦に二つに切断した。切断面が上になるように味覚器を正立顕微鏡下に置いた。-20mVから-100mVの静止電位を持つ基底部の26個の細胞で電圧固定下における電位依存性の膜電流測定を行った。基底部の細胞はインワードカレント(Na-電流)とアウトワードカレント(K-電流)の比率(Na-電流/K-電流)から次の4種類のタイプに分けられた:1.K-電流は存在するがNa-電流なし(比率 0、N=2)、2.K-電流に比べNa-電流が非常に小さい(比率 0.26±0.01、mean±SE、N=4)、3.Na-電流に比べK-電流が小さい(比率 1.74±0.19、N=15)、4.Na-電流に比べK-電流が非常に小さい(比率 12.97±4.77、N=5)。このような比率の違いが基底部の細胞タイプの違いによるのかどうか今後の検討が必要である。また、基底部の基底細胞の一つであるメルケル細胞は5-HTを含むことが知られている。今年度に残された日数内で基底部の細胞が5-HTに影響されるのかどうか調べ、基底細胞の役割を追及したい。
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