これまでの研究で、ドリコールリン酸が神経網膜細胞、グリオーマ細胞及び白血病細胞U937の細胞死を促進することを明らかにした。しかしながら、現象を押さえただけで、ドリコールリン酸がどのように細胞死の情報を与え、伝達されるのかは全く不明であった。本研究ではヒト単球系白血病細胞・U937細胞を用いてドリコールリン酸によるアポートシス(細胞死)誘導がドリコールリン酸のミトコンドリア呼吸系酵素複合体の阻害によって引き起こされていることを明らかにした。 1)FACSによる解析からドリコールリン酸による細胞死誘導の際にミトコンドリアの膜電位の変化が観察された。これはドリコールリン酸がミトコンドリアの電子伝達系に作用している可能性を示す。 2)鎖長の異なるドリコールリン酸、ドリコール類似体を用いて構造特異性を検証した。細胞死にはある程度のドリコールリン酸の鎖長、即ちイソプレン単位で7単位(炭素数で35)以上の長さとリン酸化されていることが必要であることが明らかとなった。 3)電子伝達が行われているミトコンドリアの呼吸鎖酵素複合体への影響を検証するために、単離したミトコンドリアを用いて複合体I〜V対するドリコールリン酸の効果を調べた。ドリコールリン酸は複合体I、II、IIIに強い阻害を示すことを見いだした。呼吸鎖のステップをバイパスする試薬を用いるとドリコールリン酸によるアポートシス誘導が抑制されることも同時に明らかとなった。ドリコールリン酸によるアポートシス誘導には呼吸鎖の阻害に起因するミトコンドリアの異常が重要な役割を果たしていることが強く示唆される。これらのことから今回の実験ではドリコールリン酸はミトコンドリア呼吸系を標的とし結果的にチトクロームcの遊離を誘導し、アポートシスを進めていることが明らかとなった。bFGFのアポートシス誘導については現在検討中である。
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