一般に、最新の情報技術を導入するのではなく、情報技術を駆使することが重要であると云われる。そこで本研究では、駆使する姿の背後に共通に存在するキーワードを探ることにした。そのために、経営戦略論と経営組織論の融合領域として注目を浴びている「経営資源論」ないし「組織能力論」を援用し、課題に対する分析視覚を構築することから研究を始めた。それは「情報ネットワーク活用能力」と呼ぶべき分析視覚である。組織能力は、組織成員1人ひとりの活動の束である。個々の営為を1つのハーモニーにまとめ上げた譜面が組織能力なのだ。かくて、組織成員1人ひとりの行為に注目する接近方法を採用することにより、技術そのものではなく、その活用方法の意義に光を当てたのである。 具体的には、NTT東日本(法人営業本部)、日本IBM(箱崎オフィス)、エーザイ(知創部)、資生堂(人事部、研究所、ホームページ構築プロジェクトチーム)、京都経済新聞社などの取材を基軸に、情報技術と個人の関わり方の根底に流れる論理を探ることにした。技術の背後に見え隠れする論理を明らかにすることにより、情報ネットワーク活用能力のカギを探ることが出来ると考えたからだ。 結論を簡潔に述べると、組織成員のハーモニーを奏でるためには、従来の情報化計画のように「譜面づくり」を先行させるのではなく、現場の創意工夫を創発させるような自由度の高い(いわば、意図せざる結果を誘発するような)仕組み(きっかけと後押し)を組み込むことが重要なのだ。いわば、即興演奏である。合理化・省力化ではなく、意識化と呼ぶべき論理である。意識化とは、ワーカー1人ひとりの職務を内省することにより、情報ネットワークを有効に活用するきっかけを生み出す変化を指す。この意識化を誘発することこそが、未来の競争に勝利する企業の情報ネットワーク活用能力を構築する論理なのだ。
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