研究概要 |
有理数体上に定義される楕円曲線に対して,すでに山本により存在が示されている整数係数の標準的なべき級数解を構成するアルゴリズムを与えることができた.このアルゴリズムにより,楕円曲線のゼータ関数がmodulo pのreductionを経由することなしに計算することが可能となった.このことにより,modular関数を与える新しい方法が提供され,Taniyama-Shimura予想をさらに一般化して,有理数体上に定義される楕円曲線を保型関数体として具体的に実現できることが示された. さらに,楕円曲線の間の同種写像を標準的べき級数により表現することにより,同種写像の整数論的扱いが可能となり,従来同型関係のみの分類しかできなかった保型関数体の間の精密な包含関係の研究が可能となった. また,標準的べき級数を利用して,modularな楕円曲線の代数対応を表現できるようになった.このことより,高次元のヤコビ多様体に対してHecke作用素を具体的に計算して,高次元のアーベル多様体の自己同型写像の具体的な記述が可能となることが期待できる.実際,二次体上に定義され,かつ,非自明な共役同種写像をもつ楕円曲線について,それらを有理数体上の2次元のアーベル多様体として扱うことにより,それらのゼータ関数が計算できることもわかってきた. これら一連の研究において,代数曲線のヤコビ多様体の加法公式が数式処理により具体的に計算できるようになったことから,いままで抽象的な理論のみでは予想されなかったような事実が多く発見され,ヤコビ多様体のより高度な整数論的取り扱いが可能となった.今後も,数式処理と,実験数学的手法により,理論的にはいままで取り扱えなかった対象を具体的に計算することにより,新しい整数論を見つけていきたい.
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