研究概要 |
障害児の母親が子どもの障害を受容することは,母子双方に非常に重要なことである.本研究は,母親が障害受容したことで示す具体的変化,その変化をもたらす要因を同定することを目的として,母親への面接内容を分析考察した. 対象:障害児A;現在小学校4年生.2歳8カ月で自閉傾向のため精神薄弱児通園施設に入園.当時主徴候は,視線回避・状況判断困難・遅延性反響言語・弄便で,日常生活動作は排泄・更衣が全介助,母親追いはなかった.3歳で排泄がほぼ自立,ねだる行動が芽生え,4歳で援助があれば園生活の流れに沿え,5歳で少し話し始め,6歳で単語表出での意志疎通が主となり,子ども同志の関係が芽生えた. 母親;次女A出産時27歳.夫,娘2人の4人暮し.夫は子育てに協力的.A入園時病弱な印象. 結果と考察:Aの問題点に対し初め否定的,拒否的であった母親の障害受容は,1.「(通園後約1年目)Aの障害を厄介者でなくAのかけがえのない一部とみるようになった.」と2.「(修園前頃)我が子を自分で選べるとしても今のままのAを選ぶ」という発言に表現されていた. 1.に至るまでに母親は,(1)雑誌の育児手記がきっかけで,1歳6ヶ月健診時能動的に相談する,(2)通園バスで母親同志の雑談を聞き,障害児の母親は自分と同じ普通の女性であると気付く,(3)園の保育で他の障害をもった児と交流し,障害に関係ない子どものかわいさに気付く,という人生の転機を経ていた.(2)と(3)での母親の変化は,Wright(1986)の4つの価値転換(身体障害対象の理論)の中の波及効果の抑制と資産的価値への転換である.この価値の転換が母親の障害受容を直接支える基盤であると思われる.(1)で示された母親の能動性が基本要因とも考えうる. 2.を母親にもたらした要因は,有能感であった.その有能感は,母子通園生活後半,園に対する母親の自己認識が被指導者から共に育児を考える存在へと変化したこと,施設終了後の進路を模索して母親が能動的に地域に働きかけたこと,及び結果の肯定的受容を通して獲得されていた. 受容初期の母親にとっての施設という場の重要性,受容後期の母親にとっての能動的行動と成功感を通して得た有能感の重要性が示唆された.
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