障害児の母親が子どもの障害を受容することは、母子双方にとって重要なことである。 本研究は母親が障害を受容するまでの思いの変化の過程を明らかにし、その変化をもたらした要因を同定することを目的として、自閉症児である我が子の育児を肯定的にとらえた母親2名に面接し各々の育児に関する思いの変遷に関して生活物語を語っていただき、分析考察したものである。 物語は、子どもが何かおかしいと母親が思ってから、育児を肯定的に捉えるまでの期間を対象とした。 対象1:育児に対し肯定的になったのは子どもが5歳の時で、それまでに母親は、(1)不安、(2)がむしゃらな育児、(3)環境や子どもからの学び、(4)理解と納得、(5)より広い環境との対話(6)受容という経過を経ていた。最終的に母親に障害児の母親でよかったと思わせたものは、母親自身の人生に対し母親が感じた質的向上であった。母親の成長をもたらした要因は、初期には偶発的出来事と環境からの受動的影響、後期には必然的出来事と環境への能動的関わりであった。 対象2:母親は、小学校に我が子を入学させた後「この子の親で悪くない」と思うようになった。経過は、(1)母親の不安、(2)子どもの成長と母親の喜び、(3)子どもの退行と母親の無力感、(4)子どもの安定と母親の受容と、子どもの状態を基に時々の思いを重ねていた。母親に自閉症児の母親で悪くないと思わせたものは、最終的な子どもの安定、地域の受け入れ、自己成長の実感であった。母親は、将来のいろいろな可能性を考えて控えめな表現「悪くない」をあえて用いていた。 療育者としての日々の関わりが母親の自己成長感に貢献していること、療育者の長期的視点に基づいた対応が重要であることが示唆された。
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